「親鳥ありますか?」と聞かれた日
「親鳥ありますか?」
精肉店で働き始めて4か月。毎日、牛や豚の部位を覚え、少しずつ仕事にも慣れてきたと思っていました。そんなある日、お客様から聞かれた一言です。
頭が真っ白になった、あの場面
一瞬、頭が真っ白になりました。親鳥?いつも切っている鶏の親ってこと?雛鳥……若鶏……親鳥……ブロイラー……。「あれ?何が違うんだっけ?」考えれば考えるほど分からなくなります。
そもそも、一度も調べたことがありませんでした。
会長に聞いたが、ボクは助けられなかった
近くに会長がいたので、そのまま聞いてみました。お客様の前で、分からないまま立っている自分が恥ずかしくて、声は小さくなっていました。会長に聞くまでの数秒、お客様を待たせてしまっている——その空気が、カウンター全体に広がっている気がしました。
すると、「冷凍で丸ごと一羽ならあるよ。骨付きだけど。」と言われました。でも、その答えの意味もよく分かりません。
会長がお客様と話し始めます。「ガラ付きで、スープとかね……。」お客様は少し考えて、「じゃあ、いいや。」と言って帰ってしまいました。
結局、お客様が何を求めていたのか、その場では理解できませんでした。会長とお客様の会話に、自分だけついていけなかった。横で黙って聞いているだけで、何も提案できませんでした。
▲ 4か月経っても、お客様の一言で足元が崩れる——そんな日もあります。
社長とスマホ検索で、初めて知った
あとから社長にも聞いてみました。「親鳥ありますか?って、どういう意味なんですか?」
すると社長は、「たぶん四国の方じゃないかな。親鳥を食べる文化があるんだよ。調べてみると出てくるよ。」そう教えてくれました。
その場でスマホを取り出して検索すると、香川の骨付き親鳥を豪快に焼いた写真が出てきます。社長も画面を見て、「そうそう、これこれ。」と一言。ボクは社長の横で、小さな画面を覗き込むようにして見ていました。
そこで初めて、「そういう食文化があるんだ」と理解しました。
その瞬間、恥ずかしかった。毎日鶏を切っているのに、親鳥を知らなかった——当たり前のように扱っていたものの、名前すら説明できなかった。店の裏で社長に聞いている自分が、また現場から一歩遅れている気がしました。
▲ 社長のスマホに映っていた、香川の骨付き親鳥。検索結果の写真より、この場面の方がボクの記憶に残っています。
四国——社長がそう言ったけれど、なんで四国なんだ?東京の精肉店で「親鳥」と聞かれるのは、どういうことなんだろう。写真は見えた。でも、「親鳥って何なんだ?」という疑問は、まだそのままでした。
お肉検定メモ|ブロイラー・若鶏・親鳥の違い
まず知りたかったのは、四国の話の前に、もっと基本的なところです。親鳥そのものが、いったい何なのか。お肉検定のテキストを開き直し、教科書に書いてあった内容を、ボクなりにメモしておきます。
普段、精肉店で扱う鶏肉の多くは「ブロイラー」と呼ばれる肉用鶏です。実は「ブロイラー」は鶏の種類名ではなく、食肉用として育てられた若鶏を指します。
ブロイラーは、ふ化後約21日で育成農場へ移され、小型ならさらに4〜5週間ほど育てて約1.7kg、大型なら約7週間で3〜3.5kgまで成長すると出荷されます。
一方、「親鳥(おやどり)」は卵を産み終えた成鶏のことです。若鶏より肉質は硬いものの、噛むほど旨味が増すのが特徴。焼き物や煮込み料理に向きます。
| 項目 | ブロイラー(若鶏) | 親鳥 |
|---|---|---|
| 飼育目的 | 食肉用 | 採卵後 |
| 肉質 | やわらかい | 硬め |
| 味 | あっさり | 旨味が濃い |
| 向く料理 | 唐揚げ・ソテーなど | 焼き物・煮込み |
※お肉検定テキストを参考にしたメモです。試験範囲・表記は改訂により異なる場合があります。
毎日当たり前のように切っていた鶏なのに、「ブロイラー」という言葉の意味をきちんと理解していなかったことにも驚きました。テキストを読んだつもりでも、現場で聞かれると答えられない——45歳未経験のボクにとって、恥ずかしい現実でした。
親鳥とブロイラーの違いがわかって、社長のスマホに映っていた焼き物の意味が、急に腑に落ちました。硬めで旨味が濃い肉だから、豪快に焼いて食べる——なるほど、だから四国では食べるんだ。点と点が、線につながった瞬間でした。
地域によって「当たり前」は違う
調べるうちに、香川県など四国では親鳥を食べる文化が根付いていることも知りました。東京ではあまり見かけないため、ボク自身も今まで意識したことがありませんでした。
でも、お客様にとっては「親鳥」が当たり前。ボクにとっては「ブロイラー」が当たり前。同じ鶏肉でも、地域が違えば当たり前も変わる。社長が言った「四国」という言葉も、やっと意味が見えてきました。
今度は、カウンターの向こう側に立つお客様が「親鳥」を当たり前のように口にし、ボクが知らない側に回っていた。あの日のお客様にとって、親鳥は特別な名前じゃなかった。故郷の食卓にある、普通の鶏肉だったのかもしれません。
今日の学び
ソムリエの頃、ボクはワインの名前を覚えれば接客できると思っていました。でも実際は違いました。お客様が何を食べたいのか、どんな時間を過ごしたいのか——その背景を知って初めて、提案ができた。
精肉店でも同じだと、あの日はっきり分かりました。親鳥という名前を知るだけでは足りない。「どうして親鳥を探しているのか」——そこまで想像できる店員になりたい。会長の横で口を挟めなかったあの場面を、ボクは忘れられません。
次に「親鳥ありますか?」と聞かれたら、「ありません」だけで終わらず——「親鳥はこういう鶏で、こういう食べ方をします。」「当店では扱っていませんが、〇〇なら近い味わいですよ。」そんな会話ができるようになりたい。今はまだ理想の答え方です。でも、ボクの中で、何かが少し変わりました。
この記事で伝えたいこと
もしあなたが未経験で新しい仕事を始めたばかりなら、ボクと同じように「知らない」を突きつけられる日が来るかもしれません。恥ずかしい。焦る。でも、それは失敗じゃないと思っています。
知らないと気づいた瞬間が、学びの始まりです。部位や商品名を覚えることも大切。でもそれだけでは、お客様との会話は続かない。調べて、メモして、現場で使ってみる——その積み重ねが、いつか「提案できる」に変わっていく。
45歳からでも、遅くない。ボクは今日も、一歩前の自分より少しだけ進めていると信じています。
- 知らないを認められることが、最初の一歩
- 知識は暗記のためではなく、会話のためにある
- 未経験でも、調べ続ければ現場は必ず追いつける
- 45歳・未経験で精肉店へ転職
- 勤務4か月。毎日鶏・豚・牛を加工
- 元ワインソムリエ10年
- 夢は肉×ワインのキッチンカーで全国の競馬場を回ること
まとめ|次に聞かれたら、答えられる店員に
45歳から始めた精肉修行。お客様からもらったのは注文ではなく、新しい宿題でした。
次に「親鳥ありますか?」と聞かれたら——「ありません」だけで終わらず、ちゃんと答えられる店員になりたい。始まりがその一言だったから、終わりもそこでいい。
ボクは明日も、そのために一歩ずつ勉強を続けます。
失敗も悔しさも、そのまま記録しています。
キッチンカーで競馬場を巡る夢に向かって。
※この記事は筆者自身の実体験をもとに書いています。鶏肉・商品情報は店舗・産地により異なります。詳しくは専門的な情報源もあわせてご確認ください。


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